サプライヤーとバイヤーの垣根を超えたサプライチェーンの協業活動~お客様にとっての安心のブランドに挑み続けた15年余り~<後編>

皆さんもご承知の通り、食品衛生法が15年ぶりに大幅改正され、日本食品衛生は、HACCPの制度化=食の安全の国際標準化に舵を取った。
15年と言えば当社の大口顧客であるコーペラティブチェーン様との安心部会の取り組みは15年を超え、16年目に入る。
ホームページリニューアル記念のブログに相応しいかはさておき、「安心部会」の取り組みを振り返ってみた。<後編>

エピソード7 生みの苦しみ

経営トップ同士によるコミットメントからほどなくして、企画・運営を推進する3名が招集される。
小職「いったいどのくらい数の食品企業のみなさんが対象ですか?」
Iさん「国内外併せて……五百と……、国内だけでも四百と・・・・」
小職「いつからはじめましょうか?」
Hさん「トップは、4月にはキックオフしたい意向」
大変な数とスピードである。
一社ずつ取り組んでいたのでは埒があかない。
頭を悩ませ、手をこまねいても仕方がない。思いつく限りのアイディアをぶつけ合う。
窮鼠猫を噛むではないが、この時この3人には、何かが憑依し味方をしてくれていたのだろう。
企画はまとまり、承認された。

エピソード8 とんでもない企画

今思い起こしても、とんでもない事を考えついたものだ。
1年を1期とし、毎年東西10工場、合わせて20工場ほどの代表のみなさんにお集まりいただいて、協業による現場第一主義の改善活動を行なうというものである。
協業による改善活動とはなにか?
①およそ10工場を一つのグループに見立て、その中の1工場に改善のモデルとなっていただく。
10工場の構成は、企業秘密を考慮して、お互いに異業種とする。
②参加するみなさんは、年数回モデル工場に集い、自社工場を改善するつもりで、モデル工場の改善活動に知恵を出し合う。
③モデル工場以外のみなさんは、モデル工場の改善活動を手本として、自工場の改善活動を推進し、全参加工場にフィードバックする。
④参加するみなさんは、すでに食の安全・衛生・品質を確立されているハウス食品様、キューピー様、カゴメ様、ニチレイフーズ様などの工場にい、現場を視察し、その取り組みを勉強する機会を得る。(優良工場視察部会)
⑤ 当社は、これまでの知見をフル活用して、HACCP やSQF、ISO、PP などの勉強会を企画し、改善活動をサポートする。
という内容である。

エピソード9 第三者認証取得

さらに、このチェーン様では、PB 製造を受託されている全ての工場のみなさんに、3 年以内(2007年迄)に食の安全や品質に関わる第三者認証を何か一つ取得していただくことを、製造委託の継続条件とする旨を宣言された。
今であればこそ、違和感無く2020 年までにお願いしますといえるかもしれないが、15 年先を見据えていたというのは、結果論である。

エピソード10 案ずるより

とにもかくにも、その年の4月、モデル工場2社を含む18社のみなさんが集い、安心部会はキックオフを迎えた。思い出しても緊張するスタートであった。果たしてうまくサポートできるのか?
しかし、いざモデル工場の現場に集うとその心配は払拭された。
参加された全ての皆さんが、それまで培われてきた現場目線の課題の発見力をいかんなく発揮してくださり、その経験から課題の改善方法もどんどん提案していただいた。
そして、ひとつひとつの課題とその改善を目の当たりにすることで、自社工場の課題を発見する眼力が、更に養われていく事につながり、すさまじいスピードの改善に繋がっていったのである。
異業種の方、経験が異なる方、品質管理の方、製造現場の方、経営に携わる方……、さまざまな目線で見て、感じて、考えたことを共有することで経験値が自然に向上し、問題解決力の飛躍的向上という財産を築いてくださった。
特筆すべきは、モデル工場のみなさんの改善への情熱とスピードである。モデル工場のみなさんのためにとはいえ、異なった多くの目線が放つ歯に衣着せぬ課題。それを真摯に受け止められ、1年間で数百件の課題を解決していただいた。頭が下がると言うより、尊敬に値する。心から感謝を申し述べたい。
そして、1年間の安心部会は、参加全企業の経営トップのみなさんの前で、その成果を発表することで1期の幕をおろす。

エピソード11 継続は力

既にご案内の通り、安心部会は今年度16期目を迎えた。
これまで150 にも及ぶ企業(工場)のみなさんに参画していただき、6,000人を超えるみなさんにお集まりいただいたことになる。
この取り組みが継続され、その一端を担えてきたことは、弊社にとっても大きな財産であり、毎年新たな気持ちで、国内外から新たな情報を提供するために精進することを肝に銘じている。

エピソード12 成果物=財産

この取り組みの成果は、多くの改善活動の共有にとその継続による裾野の拡大である。
そして、それは大きな財産となっている。
成果物をひとつひとつ紹介したいところだが、あまりにも多すぎてそれはかなわない。
優良工場視察に学び、それまでは床に常時水を流していた漬物工場の常識にみなさんで挑んだドライ化。それは長靴から短靴への働き方改革という成果のみならず、毎年のように床が傷んで改修を余儀なくされていた事が嘘のようになくなった成果にもつながった。
勉強会では、手順書やルールの整備だけで終わらせないために、見える化や落とし込みのための工夫を追及した。それらの中には、紙芝居式の教育資料やHACCP あるある川柳などがある。
最近では、プレゼンテーションソフトを駆使し、きれいに仕上がった教育資料を目にすることも多いが、教わる方も、楽しみながら参加でき、心に暖かく響く、伝わり易い、手作り感満載の紙芝居が数多く作成され、利用されてきた。
つい最近10 年ぶりに訪れた工場で、「あの時作った紙芝居を、さらに進化させて楽しんでます」工場長がそれを見せてくださった。歳のせい、か、つい涙腺が緩んだ。あるある川柳で寸劇をしながら笑いをとっているという品管の責任者もいらっしゃる。みなさんの取り組みの情熱が衰えを知らないことに感謝し、これも大きな財産となっていると素直によろこびを噛み締めた。
これまでにお集まりいただいたPB 受託工場のみなさんは、それぞれの業種では国内のトップクラスの売り上げを誇り、食の安全や衛生、品質に関してもトップレベルにあるとの自負をお持ちである。
ただし、同じ業界内での立ち位置は分かっていても、食品業界全体の中での立ち位置が把握できていなかったという皆さんがほとんどで、目指すところが修正できて良かったという声
を多く聞いた。
これも異業種のみなさんが集って取り組むというとんでもない企画の大きな成果であろう。
さて本部会をサポートさせていただいているチェーン本部様の「お客様に安心してお買い上げいただける信頼のブランド造り」という大命題は、達成できているのか?
2007 年~ 2008 年にかけて、食品関連企業への品質クレームはピークを迎えていた。
国内外で起こった大きな食品事故や偽装などにより、消費者のみなさんの不信感が高まり、食品を見る目が極めて厳しくなったためだ。
これに対して、この15 年間で安心部会に参加された企業のみなさんの品質クレームは減り続けており、更に、2018 年度の工場責任の品質クレーム発生率は、10前に比べて40%にまで削減されるという劇的な成果を達成されている。これも参加企業のみなさんの15年にわたる真剣勝負の積み重ねのおかげではあるが、はじめから携わってきた者の立場としては、うれしい成果=財産である。

おわりに

世界の食品流通はボーダレス化やグローバル化が加速している。日本の食卓に並ぶ食品も、その原産地の全てを言い当てるのは困難だろう。
その意味においても、国際的に通用し、安心してお買い求めいただける信頼のブランドへの取り組みは大変重要である。
そして、2 年前から海外のサプライヤーのみなさんともこの取り組みを開始された。その成果が待ち遠しい。重大クレームゼロの実現を目指し、ゆるぎない安心と信頼の確立のために、これからも現場主義と協業をサポートできるよう精進したい。

片桐史人